神代、四魔神の手に四宝珠、在り
 東の黄色い石──黄珠おうじゅ
 南の赤い石──紅珠こうじゅ
 西の青い石──青珠せいじゅ
 北の緑の石──翠珠すいじゅ
 四つの宝珠は精霊の宿り石
 それぞれの石には精霊が宿り、石自らが己のあるじを選ぶものなり

序章 仮面

 ゆらゆらと揺らめく光は、いくつもの蝋燭の炎が生み出す影である。
 どことも知れぬ館の、どことも知れぬ部屋に、そこはあった。
 部屋の中央には粗末な木の卓子が置かれ、同じく粗末な木の椅子に座った人物が卓子の上の水晶玉に手をかざしている。
 室内には、二つの影があった。
 粗末な椅子に腰かける影は、気味の悪い仮面と面紗で顔を隠した、皺だらけの手を持つ腰のまがった人物で、かなりの老齢と見受けられる。
 もう一人は、若い。
 若々しい精悍な面立ちに、かなりの長身。白一色の衣裳をまとっていた。
「我が君様」
 座ったほうの人物が、水晶玉にかざしていた手をおろし、老婆の声で言った。
「四宝珠の行方が判りました」
「ほう」
「赤い石は常夏の地に、黄色い石は光届かぬ城に、緑の石は黒い牙を持つ星の手に、そして青い石は黒き風のもとにあると出ております」
「どういう意味だ?」
「“常夏”は、朱夏を名乗る魔女を指していると思われます。したがって“常夏の地”とは朱夏の魔女の住処です。次に“光届かぬ”ですが、それは一度も光を見たことのない者の心うちのこと。つまり、盲人の心──それが“城”にあるのですから、石は王族に連なる盲人のもとにあるということです」
「うむ。それから?」
「“黒い牙”は、言うまでもなく、黒牙帝──千年前の天狼帝国皇帝・セイリウのことでしょう。すると“星”は天狼星を連想させます。よって、緑の石は黒牙の裔を名乗る例の黒曜国公の手元にありましょう。そして、最後の石ですが、“風”とは放浪の旅をする者の意。その風は“黒い”のですから、黒衣の放浪者、すなわち、それは巡礼者を意味しております」
「ふむ……」
 長身の人物がうなずいた。
「朱夏の魔女と黒曜国公は一人きりだ。王族の血をひく盲人も、容易に見つかろう。しかし、ガデライーデよ、巡礼の旅の者となると、話は全く違ってくる。考えてもみよ。いったい、この大陸中に幾人の巡礼者がいると思うのだ。何かほかに、その者を特定できる手がかりはないものか」
 仮面の老婆の手が再び水晶玉にかざされた。
「死の影を背負う者──そう出ております」

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