大いなる沈黙の時代を経て、妖霊星の輝きのもと、今宵、天と地の門が開かれん
 天の門より天の御子、遣わされし 地の門より地の御子、遣わされし
 その者たち、人の姿を借りて、この世の大地に生まれいづる

序章 誕生

 大陸全土を嵐が襲った。
 大気を、大地を、世界をも震撼させる嵐であった。
 世の終末を告げるごとく、
  雨は舞い、
   風は唄い、
    嵐は荒れ狂った。
 十の朝と十の昼。
 そして十の夜を吹き荒れた。
 やがて夜は十一日目を数える。
 ようやく大地が静けさを取り戻したとき、人々は夜空に輝く妖霊星の出現を見た。
 夜──
 不気味なほど静まり返ったこの夜。
 レキアテル王国の王宮の中で、一人の男児が誕生した。

 赤子を産んだのはレキアテル国王の妹姫であった。
 弱冠十六歳の、未婚の姫君であった。
 王家の醜聞を避けるため、姫君の兄・国王は、生まれた赤子を自らの子として育てる決意をした。
 己と、その妃の実子として──

 生まれた赤子は、盲目であった。
 硝子のような翡翠色の瞳は、なにものをも映さない。
 歓びも──悲しみも──

 母である姫君の眼にも、赤子は映らなかった。
 赤子など、産んではいないと、姫君は泣いた。
 姫君の眼には事実が見えない。──見ることができない。
 姫君はすでに正気ではなかった。
 我が子をそのかいなに抱くことすらなく、
 姫君は、冷たい川に身を沈めた。
 そして、帰らぬひととなった。
 翡翠色の瞳は、母の死すら映さない。

 妖霊星はそれでも輝く。
 きらめく星河の支配者のように。
 妖霊星は見たり。
 下界にある全てのものを。
 しかし、星は語るべき言葉を持たぬ。
 ただ、輝く沈黙を守るのみ。

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