四つの宝珠を手にした者
 その者、最強最大の権力ちからを得るものなり
 その者、大陸最大の覇者とならん──

序章 四魔神

 神代、大陸に四つの帝国あり。
 各帝国はそれぞれ四人の魔神によって支配されていた。
 蝙蝠の翼を持つ南の金烏帝国の炎魔神・朱羽帝ヴァルク。
 羊の角を持つ東の玉兎帝国の風魔神・双角帝シン。
 銀と青の鱗を持つ西の太白帝国の水魔神・青鱗帝ヘスカー。
 猪の牙を持つ北の天狼帝国の地魔神・黒牙帝セイリウ。

 四宝珠は、かつて、四人の魔神の所有物であった。
 そしてまた、俗に四魔神と呼ばれる彼らこそ、四宝珠をこの世に創り出した魔神たちであると伝えられている。
 己が力を世に誇示するため、彼らは世にも稀な宝玉を造り出した。
 自然界の四つの力を象徴した四色の宝玉を核に、それぞれ、自然界を代表する四つの力を注ぎ込み、これを結晶体に変えた。
 結晶された自然界の四つの力──四大元素は、四つの宝珠となり、石からあふれ出た力からは精霊が生まれた。
 それは、無から精霊を生み出すほどの比類なき強大な力だった。
 四魔神とは、それほどの力を操る者たちであったのだ。

 自然界の力の結晶は四つの宝珠になった。
 赤い火の石──紅珠。
 黄色い風の石──黄珠。
 青い水の石──青珠。
 緑の地の石──翠珠。
 四つの宝珠にはそれぞれ精霊が宿る。

 赤い石は朱羽帝が、黄色い石は双角帝が、青い石は青鱗帝が、緑の石は黒牙帝が、権力の象徴として、大切に所有していた。
 赤い石は黄金の王笏に象嵌され、
 黄色い石は青銅の短剣の柄に象嵌され、
 青い石は玻璃の聖杯に象嵌され、
 緑の石は五芒星が刻まれた金貨に象嵌されていた。

 魔神は約五〇〇年の寿命を持つ。
 各々の帝国には、
 魔物が棲み、
 魔人が住み、
 獣が棲み、
 ──そして人間たちが生活を営んでいた。

 刻は三〇〇年余りを平穏に過ぎ──表面ばかりは平穏に過ぎ。
 朱羽暦三一六年。そして、妖霊星の出現。

 朱羽暦三二三年。朱羽帝に、一人の美女が献上された。
 彼女はまさに傾国であった。
 その女のため、四大帝国の力の均衡が崩れ──
 朱羽暦三二四年。均衡を失った四つの帝国は、たちまち崩壊の一途をたどった。

 そして、時代は群雄割拠を迎え──
 三十年戦争勃発。
 約三〇〇年の栄華を誇った四大帝国は滅亡した。
 そして、四帝時代は終わり、大陸に“沈黙の封印”が施される。
 ──沈黙の時代の幕開けであった。

第一話 ≫ 

2005.4.12.